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鮮やかな彩色が施された白い焼き物の招き猫。
「女の子へのプレゼントに博多人形とは渋いねえ。ふふっ、この猫いい表情してる。ご利益がありそう。」
山形さんが言った。
「出張で福岡に行っていたので、そのお土産です。」
福岡は美味しいものも多く食べ物にしようかとも思ったのだが、橋野さんの殺風景な部屋のことを思い出して飾れるものを選んだ。
「福岡のお土産嬉しい。私福岡出身なんだ。地元は博多ではなくて、南の方だけど。」
「知ってるよ。この間、タクシーの運転手さんに連れて行ってほしいって駄々捏ねてたから。」
「えっ、何それ覚えてない。綾乃ちゃん、私もしかしてまだ他にも謝罪しなくちゃいけない人いたりする……?」
不安げに見つめる橋野さんに、山形さんは意地の悪い笑みを浮かべて、さあどうだったかなあとすっとぼけた。慌てる橋野さんの追及をのらりくらりとかわしている。俺はそろそろ止めてやろうと立ち上がる。部屋の中はふんわりとした空気で満たされて、えびす顔の招き猫が優しく見守っていた。
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