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「死を迎えるための準備って、具体的には何です?」
「そうだなあ。例えば大切な人たちとの最後の思い出作りじゃないか?別に旅行とか特別なことはしなくてもいいんだ。一緒にご飯を食べるとか、近所を散歩するとか。」
「それじゃ、普段と変わらないじゃないですか。」
「まあ、そうなんだが……病気の人間にとっては、こんなささやかなことすら難しい場合もあるからな。」
手元の本を見る。内容は患者の死に向き合う医者の話だ。この本に登場する患者たちは皆、元々は健康に日常生活を送っていた人たちだ。彼らはある日突然発病し、様々な葛藤の末に病気を受け入れ病気に立ち向かい、最期を迎える……。
「後藤さん、だいぶこの本の登場人物の気持ちに入り込んでいますね。」
「ああ、そうかもしれん。」
後藤さんが選ぶ本は、ワクワクするような内容のものばかりではない。気が重くなるような、読後もしばらくその気持ちを引きずってしまいそうなものの時もある。
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