本の虫の幽霊の後藤さん

3.心のままに

日曜日は後藤さんのリクエストにお応えして、森鴎外旧居、松本清張記念館を回った。どちらも自分だったら選ばない観光スポットだったので新鮮だった。

森鴎外の作品は、学生の頃に教科書で『舞姫』だけは読んだが、その文体の難しさに辟易した記憶しかない。そのため、旧居を訪れた感想も古い日本家屋っていいなとか、庭が綺麗だな程度のことしか浮かばず、後藤さんに勿体無いと言われた。

松本清張記念館では、まずその著作の多さに驚いた。映像化された作品もかなりある。清張の書斎や書庫の再現展示では、執筆のために集めた資料の膨大さに圧倒された。一冊の本を書くために、どれだけの手間と時間をかけたのだろうか。作家の作品にかける熱量を確かに感じた。展示を見終わった後、気になった本をミュージアムショップで即買いした。

その日の終わり、会社と実家にお菓子のお土産を、そして特別なお土産を二つ買ってホテルに戻った。

翌週の工場での生産テストは何事もなくすんなりと進み、俺は晴れやかな気分で東京に戻ることができた。