拾われた子犬

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拾われた子犬

目が覚めると、四角い雲が僕をじっと見ていた。不機嫌そうなその雲と睨めっこするのは嫌だったので、僕はかあさんを探そうと起き上がった。いくら首を右に左に回しても、見えるものは壁ばかり。いつも見える、上が丸くなっている明かりはどこにもなかった。 上を見上げると不機嫌そうにどんよりとした雲は、ますます不機嫌になって僕を睨みつけた。 「君、僕のかあさん、知らない」 雲は黙ったまま、今度は少し優しそうな顔になったかと思うと、僕の鼻の頭に冷たい物を一つ落とした。 「それ、僕の嫌いなやつだろ。なんでそんな意地悪するんだよ」 呟くような小さく力のない声で言った。 僕を睨んでいる不機嫌そうな雲には、聞こえないように。 「かあさん、早く帰って来てよ」 僕は何度もかあさんを呼んだ。もう、ここが僕とかあさんの犬小屋ではないことは、さっき鼻の頭に落ちてきた冷たい物が教えてくれた。 どうしたんだろう、かあさん。 そう思うと、急にお腹が空いてきた。そういえば、朝起きた時に飼い主さんが丸い器に出してくれたドックフードを、かあさんと並んで一緒に食べたきりだった。 目が覚めたかあさんは犬小屋から出て来ると、いつものように前足を地面につけたまま突っ張るように伸ばした。そのあと右足を後ろに蹴るように伸ばし、そして左足も同じように後ろに伸ばす朝のストレッチを終えた。 それからお椀に入った水を三口だけ舌ですくい上げるように飲むと、首輪につけられた紐を跨いで僕の所まで来て何度も舐めてくれた。頭を何度も舐め、胴体も足もお尻も舐めてくれた。そう言えば普段よりも、ちょっと痛いぐらいに舐める力が強かった。 朝ごはんを食べたあと、僕はかあさんにいっぱい遊んでもらった。ボールで遊んでもらったし、穴ほりも教えてもらった。くたくたになるまで遊んでもらったら、柔らかな春の陽気と心地よい風に当たりながら、かあさんのお腹を枕にして夢の中に入っていった。 かあさん、わかっていたんだね。僕とお別れしなければならないこと。そこまで考えると急に体の力が抜けてきた。くたびれて、横になった。もうかあさんには、会えないんだ。 僕はかあさんのお腹の中から、他の三匹の兄弟と一緒に生まれた。かあさんのおっぱいを誰かが飲み始めると、あとのみんなが競うように夢中になって飲んだ。僕はいつも、横たわったかあさんの後ろ脚を枕にして飲むのが、お気に入りだった。て言うか、みんなかあさんの顔の近くに行きたがったので、僕は必然的に後ろに追いやられたんだ。かあさんの顔に一番近い場所だと、おっぱいを飲んでいるときにかあさんに顔を舐めてもらえるからね。後で知ったんだけど、すっごく気持ちいいんだよ。 でも、仕方なかったんだ。僕は他の三匹の兄弟よりも、臆病だったからね。動きも遅く、兄弟とじゃれあって遊んでいても、いつも僕は下になっていた。
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