夢の中でおやすみを

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「はぁ、疲れた…」男はそう言うと砂漠の真ん中で座り崩れた。サラサラの砂は冷んやりしていて、今日一日中この広大な砂漠を一人で歩き続けていた男の熱を溜め込んでいた身体にはとても心地よい冷たさであった。男は今日初めてこの砂漠に来て日の出とともに歩き出し、すっかり夜になった今まで休憩もせずに歩き続けていた。そんな男は何やら一人でブツブツと喋り始めた。 「しかしここは何も無い砂漠だったなぁ…。全くの砂しか存在していなかった!石も岩も草木も、オアシスはおろか水の一滴も存在していなかった。もちろん生物なんて虫の一匹も居なかったな!」これは男にとってこの“独り言”は毎日の事でこの十年間一日も怠った事は無い習慣なのであった。もちろんそんな男の独り言を聞いている者もそれを聞いて不気味がる者なんてこの砂漠には誰一人何一つとして存在していなかった。ここにはただただ無限の砂が無限に広がる広大な砂漠があるだけなのだった。 男はリュックを傍に投げ置き、バサリと仰向けに寝っ転がった。夜の冷気と冷えた砂が男の心身を洗ってくれているようだった。そして空にはこの砂漠独特の満点の星空が広がっていた。まるで吸い込まれそうなその星空は男が今まで随分と見てきたそれともまた違う輝きを放っていて、男の心身はさらに癒されていくのだった。 どれくらいの間男はそうしていたのだろうか…。ムクリと上半身を起こすと、男はリュックの中から丸いベルの付いた丸い形をした古い目覚し時計を取り出した。 「はぁ、もう二十二時か…。歩いている時はえらく長いと感じていたが、今となってみるとだいぶ前のことのように思うな…。昼間の地獄のような暑さもこの星を見ていると吹き飛んでしまった…」そう言うと男は目覚し時計の目安針を五時にセットした。これもいつもと同じ毎日の事でこの十年間怠った事は一度も無かった。 「あぁ、今日もいい夢だった…。さて目覚し時計よ、明日は一体どんな夢を見させてくれるのだ?今日の夢も昼間の過酷な苦労の後の最高の星空はそれはそれは素晴らしかったぞ。明日もまたたのむぞ。では今日の私よ、おやすみ。」そう言うと男は傍に目覚ましを置き、横になり目をつむった。男は今日もまた明日の夢に向かって夢の中で眠りに就いたのだった。
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