【1】討ち入りは聖夜に

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 征司は旧警視庁生活安全部保安課特殊風俗監理係、略して特風(トップウ)に所属する刑事だ。主な仕事は、特殊な者を雇う性風俗店の監視および取り締まり。ここで言う特殊な者とは希少な性別を持つ『オメガ』と呼ばれる人達のことだ。 「無駄足だったらすまんな」 「そのほうが俺達にはありがたいね」  この世界には生物学的な男女の性とは別に第二性と呼ばれる性別がある。海外ではバース性と呼称されるそれは、三つに分類される。  身体能力に長け、そのカリスマ性や優秀さから上流社会に君臨するアルファ性。  一定周期で「発情」を起こし、男女共に妊娠することが可能なオメガ性。  そして、人口の大半を占める普通の人々、ベータ性。  征司はその他大勢の一般人、つまりベータ性に属している。 「あー、タバコ吸いてえ」  ネオンに浮かぶ路地を見据えたまま、ゆうに百回は越えたであろう独り言を無意識に口にした。 「オメガ案件じゃなかったらすぐに帰ってもらうから、もう少し我慢しろ」 「いんや。俺の経験上、あの店は黒だ。真っ黒くろすけだ。出ておいでーって呼ばなくても、発情したアルファやオメガがウジャウジャ出てくるパターンだ」 「出ておいでってなんだ」 「前に見た深夜のアーカイブチャンネルでやってた。お子様向けのアニメの台詞だ」 「アニメなんか視るのか」 「お前こそ、子供がいるのに視ねえの? 仕事ばっかしてると帰ったときに『ママー! 知らないおじちゃんが来たー』って子供に泣かれるぞ」 「ほとんど、庁内に住んでるお前に言われたくはないな」
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