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「お疲れさまです。遅くなりました」
「……まったく、無理して来なくてもいいのによ」
征司の憎まれ口に笑いながら、後部座席に落ち着いた男が温かい缶コーヒーを差し出した。
「おっ。気が利くな。用事ってのは済んだのか」
「ええ。今夜の特風の皆さんの活躍を楽しみにしていたので速攻で片付けて来ました」
「クリスマスイブだってのに、彼女に振られても責任は取れねえぞ」
「誤解されてるみたいですけど、プライベートの用事ではないですからね。それに振ってくれる彼女もいないので、ご心配なく」
二人のやり取りを黙って見ていた高田が会話に割り込んでくる。
「佐久間、彼は誰だ。新入りか?」
「こいつは昨日からウチに来た、厚労省のお役人様だ」
「厚労省から?」
青年はスーツの内ポケットから取り出した名刺を高田に手渡して、自己紹介を始めた。
「厚生労働省第二性保護保全局オメガ保護監察課の神代透哉といいます。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。私は新宿署の高田です。佐久間とは交番勤務からの腐れ縁でしてね。オメガ保護監察官ですか。しかし、厚労省の方がどうして現場に? 何か問題がありましたか」
「いえ。今年から始まった省庁間人材特別交流プログラムの一貫で、各省庁の若手職員が他部署で六か月間研修することになったんです。僕は保護監察官なので、どうせなら佐久間さん達、前線でオメガの保護に尽力されている方の職務を体感したいと思い、旧警視庁に出向してきました」
「そうでしたか。しかし赴任して直ぐにガサ入れとは大変ですね」
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