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「僕としてはとてもいいタイミングです。でも、佐久間さんには同行することを相当渋られたんですけどね」
「当たり前だ。こっちはただでさえ忙しいのに素人の、それもエリート様の面倒なんかいちいち見ていられるか。美玲に体よく押しつけられたから、仕方無く連れ歩いてるだけだ」
「押しつけられたって、お前は本当に口が悪いなあ。こいつの言うことなんて気にしないでくださいね、神代監察官」
フォローに走った高田の顔を睨みつけると後部座席の神代から、ふふふ、と笑いが聞こえた。
「佐久間さんの毒舌に慣れないといけませんね。それに僕のことは呼び捨てでかまいませんよ。お二人に比べたら経験も年齢もまだまだな若輩者なんですから」
「そうだぞ。いくらエリート様だからって、若造にゴマを擦る必要ない。それにベータのキャリアアップはどこの省庁でも課長止まりだ。擦るだけムダだぞ」
「……お前、いい加減にその憎まれ口なんとかし……」
高田の小言をシッと指を立てて遮る。最寄り駅の方向から、こちらに歩いてくる人影が左のドアミラーに映っていた。
三人で体を小さくして気配を殺す。人影は背の高い男だった。ネオンに照らされたその姿は、この路地には不似合いなほど身綺麗な形をしていた。高そうなスーツと手に提げているブランドのバッグ。若いエリートビジネスマンのテンプレだ。
男が征司達の車の横に差し掛かった。途端に印象的な匂いが鼻をついた。
――相変わらずクッセエな。
車の横を通りすぎた男の残り香を追うように小さく鼻を鳴らす。
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