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男は監視対象のビルの前で一瞬立ち止まった後、二、三度周囲を見渡して足早に店へ入っていった。
「どうだ」
征司は確かめるように後部座席の窓を僅かに下げ、外の空気をもう一度吸い込んだ。間違いない。これは発情の匂いだ。
「アルファだ。すました顔して歩いていたが、よほど期待しているんだろう。匂いがきつい。ダダ漏れだ」
「もしかして、さっきの人のフェロモンを嗅ぎ分けたんですか?」
鼻に皺を寄せている征司に、神代が興味深げに訊いてくる。
「昨日、秋月係長から、佐久間さんには警察犬もビックリの能力があるって説明は頂きましたが、本当なんですね。学術的にオメガフェロモンは一般人にも感じられますが、アルファフェロモンはわからないはずなんです。でも、佐久間さんはちゃんと嗅ぎ分けている。いつからですか? アルファのフェロモンはどんな匂いなんです? あまい? それともスパイシーな香り?」
勢い込んで、運転席と助手席の間から身を乗り出さんばかりに訊いてくる神代の目は大きく見開かれ、好奇心に輝いている。
「そんなことはどうだっていいだろ」
「知りたいです。すごく興味があります。いつも匂うんですか? それともラット時だけ?」
「張り込んでるのがバレる。静かにしろ」
「オメガでさえ、運命の番となる相手のフェロモンしかわからないと言われているんですよ。もし、オメガのように発情の前兆が予測出来たら、彼等の暴力性を抑制する手立てが取れます。佐久間さん達の仕事も楽になるかもしれませんし、ぜひ一度、詳しい検査を……」
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