212人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前が移り気するなんてねぇ。意外だけど、なんか安心したよ。で、そいつとはどこまでいった?」
「もう黙れよ」
「キスした?」
「……」
「ヤッたか」
「殴るぞ」
司はいよいよ本気になったが、五十嵐はその反応すら楽しんでいる。
「『殺すぞ』って言わないところが、司っぽくて尚更怖いね」
呆れた司は、紅茶分の小銭を机に置くと席を立った。五十嵐が慌てて追いかけてくる。
「そんなに怒らなくてもいいだろ」
「くどいんだよ」
「いつもなら適当に受け流すじゃねぇか。らしくないな」
そう言われてようやく冷静になった。五十嵐は「そうだろ?」と言わんばかりの微笑を浮かべた。目の前にあるコンビニに気付いた五十嵐は「待ってろ」と言い、一人コンビニに入った。司はそのあいだに深呼吸をしながら心を落ち着ける。戻ってきた五十嵐に、何かを投げ渡された。絆創膏だった。
「それ、ちゃんと冷やしとけよ」
右手の甲をトントンと叩いて、五十嵐は去った。会社でホットコーヒーをかけられた時に出来た火傷のことを言っていた。たいした傷でないので手当てせずにいたのだが、時々ヒリヒリと痛むのを五十嵐は気付いていたらしい。
悪い奴じゃないのだ、と絆創膏を見ながら思った。
最初のコメントを投稿しよう!