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「司を知ってるの?」
「美央の彼氏、経済学部だったよね。コイツも経済学部なのよ」
「同じクラスだぜ。あんたは俺のこと初めて見るだろうけど、俺は司とあんたが一緒にいるところよく見るから知ってる。この広い大学で分かるんだ、相当だぜ。仲良いよなーって、見る度思うよ」
典子が五十嵐を睨みながら口を挟んだ。
「あんたって言い方はないでしょう」
「ああ、失敬。だって名前知らないんだもん」
「井下です」
「井下さんね。ところで、こないだのクソ講演、来なかったの? 司はいたけど」
「何、クソ講演って」
「新入社員が就活のこととか、仕事のことについて話すやつ。すんげーつまんなかった。知らない?」
「知らない。就活のことはお互い何も知らないの。何をしてるとか、どこを受けるとか」
「てっきり一緒にしてるんだと思ってた。司と同じ方面の会社受けるのかなーとか」
「それも知らないの」
「就職でバラバラになっちゃったら、どうすんの」
五十嵐は軽く聞いたつもりだったが、美央はそれを彼の想像以上に重く受け止めた。表情を暗くした美央に気付いた典子が、五十嵐を肘で突いた。
「気を悪くしたら、ごめん。さっき、ラウンジに司がいたぜ。行ってみたら?」
「そうする。ありがとう」
五十嵐の進言でラウンジに向かった美央は、机に伏せている司の後ろ姿を見つけた。耳にはイヤホンを入れている。寝ている司の脇腹をつついたら飛び起きた。
「びっ……くりしたぁ。なんだよ」
「何してるの」
「見て分からない? 寝てた」
机の上には書きかけの履歴書があった。美央は何食わぬ顔で覗こうとしたが、早々に片づけられた。美央が履歴書を気にしていたことに司は気付いていない。
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