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「井下は元気か?」
美央のことを言っている。
「元気だよ。今回は合宿に行くらしいから、先に帰って来たんだ」
「しかし、高校三年からよくもってるよな。大学が同じだからってのもあるんだろうけど。そんなに長く付き合える相手がいて羨ましいよ」
「お前、春に会った時は彼女が出来たって言ってたじゃないか」
「もう別れたよ。俺よりいい大学の奴に取られちゃった」
そのあと、ちゃっかり「いい子がいたら紹介してくれ」と付け足した。
二人のいつもの行動パターンは、たいていボーリングやカラオケ、ゲームセンターで夜まで散々遊んだ後、居酒屋に行く。今回も同じようなパターンだろうと思っていたら、祐太が別のプランを提案した。
「中学行ってみねぇ?」
「いいけど、突然なんで」
「こないだ、たまたま同じ中学の後輩に会ったんだ。野球部の。そいつ、今でも中学のグラウンドに顔出してるらしいんだけど、今度少しでいいから来てくれないかって言われてさ。そんなに時間取らせないから、いいか?」
「いいよ」
祐太の運転で母校に着くと、夏休みだというのに賑やかな校内だった。音楽室からの吹奏楽部の演奏や、グラウンドや体育館からの運動部の掛け声が校門まで届く。それぞれの部活動の活気が混ざり合う、この雰囲気がとても懐かしい。
「ごめんな、司。付き合わせて。今日しか行ける日がなくてよ」
「いいって」
司は野球部とは縁がないが、とりあえず祐太に付いてグラウンドまで行った。直前まで「面倒だ」と洩らしていた祐太も、いざ顔を出すと楽しそうにはしゃいだ。後輩たちとの再会を喜ぶ祐太の姿が微笑ましく、またそういう場所があるのを羨ましくも思う。
自分が傍にいることでかえって気を遣わせるかもしれないと思い、祐太に『体育館にいる』とメッセージを入れてその場を離れた。
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