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フレッシュジュースを飲む司の傍らで顔色ひとつ変えずにブラックコーヒーを飲むところも、足を組んで少しけだるそうにするところも、高校生とは思えないほど大人びて見えた。正直、体の線が細いために松岡の第一印象は貧弱だったが、袖から伸びた腕は筋が目立ち、ほどよく筋肉に恵まれ、少なくとも司よりはよっぽど出来上がった体つきだ。松岡を見ていると自分の未熟さを感じて落ち込む。半面、自分もこんな風に大人びていくのだろうかと考えた。 「松岡先輩、今でもバスケしてるんですか?」 「うん、でも、俺の高校のバスケ部は弱小だから、もう遊びみたいな感覚でやってるよ。中学の頃のほうが、よっぽど練習がキツかった。笠原は高校でもバスケ部入るの?」 「考えてません。その時決めます」 「どこの高校行きたいの」 「それもまだ……。先輩はどこですか?」 「T高」 「すごい頭いいじゃないですか」 「たまたま倍率低かっただけだよ」 「俺、英語が苦手で。定期テストですらまともな点数取れないんです」 「俺は英語が一番得意だけど。なんなら教えようか」 「そうしてくれると助かります。でもその前に宿題終わらせないと」 「まだ終わってないのか。見てやろうか?」 「いっそ全部やって欲しいくらいです」  にこにこと人当たりの良い笑顔で、相手が不愉快にならない程度の馴れ馴れしさがあり、それでいてこちらから土足で踏み込むことは許さない、ほどよい距離感。もともとべったりした人間関係を築くのが苦手な司にとって、松岡と会話をするのは心地が良かった。  二時間ほど話したあと、二人は店の前で解散した。特に会う約束もなく「それでは、お元気で」の意味で松岡に礼を言った。松岡は「また」と返してきたが、おそらく会うことはないだろうと思った。
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