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最後の試合くらいは良い思い出を作っておきたいのは分かる。だからといって司が八百長をしたところで、宮本が他のメンバーに負け続けたら意味がない。だが、宮本に切実にここまで訴えられたら、断われなかった。司は迷いながら承諾した。
「ありがとう! 恩に着るよ!」
「俺以外の人には実力で勝ってくださいよ」
「勿論だよ! こんなこと頼めるの、お前しかいない。本当にありがとう!」
そして翌日の試合では周囲に悟られないよう宮本に勝たせてやった。誰にも怪しまれなかったので、こんなものかと気抜けしていたら意外な人物に指摘されてしまった。美央だったのだ。
「今日の試合、なんだったの?」
校門を出て自転車にまたがった時に言われた。美央はアーチェリー部なのでテニス部での出来事は知らないはずだ。司は試合を指摘されたことより、そっちのほうが気になった。
「なんだったのって……どういうこと」
「今日、テニス部試合してたでしょ。通りかかった時に見たの。丁度笠原くんが試合してたわ。なんなのよ、あのやる気ないの」
「何も知らないくせに、いきなりやる気がないとか言われても」
司は自転車から降りて、押しながら歩いた。美央は付いて来る。
「わたし、中学の頃テニス部だったからテニスのことは分かるの。……そうじゃなくて、第三者から見ても、わざと負けたってバレバレよ。見てて腹が立ったから言っちゃった。相手の人に何も言われなかった?」
「別に。っていうか、言われてわざと負けたんだ」
「あ、認めた」
「事実だから」
美央は憮然とした態度から一変して、今度は感心しているようにも見えた。
「言われてって、何を言われたの?」
「試合に負けてくれって」
「誰に」
「対戦相手に」
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