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暫く沈黙が流れた。美央は空を見上げていた。司もつられて顔を上げる。木の葉が風に揺れてザワザワと音を立てた。鳥が飛んだ。水色の空にはもう夏の雲が浮かんでいる。
「わたし、笠原くんのそういうところ好きだよ」
「えっ?」
「なんていうかね、不器用な優しさっていうの。優しい人はたくさんいるけど、『こうすればこの人のためだった』とか、あんまり考えないと思うの。考えたとしても、それによって自分がどう思われたかなって、体裁を気にするじゃないかな。だから先輩やみんなを思って反省してる笠原くんは本当の優しい人だよね」
「さあ、それこそ深く考えたことない」
「だから、わたし、笠原くん好きだな」
司は今一度、目を見開いて美央を見る。
「告白してるのに」
「そういう意味?」
「そういう意味だけど」
急な告白に驚いて言葉がない。平気ぶっているが、美央も表情が少し強張っている。素直に嬉しいと思った。付き合えと言われたら付き合える。だが、よく分からないままで告白を受ける気はなかった。司は正直に答えた。
「ありがとう……でも俺、井下のことは友達としてしか見てなかったから……」
「うん、いいの。ただ、わたしが好きだと言ったことは覚えておいてね」
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