IV

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「一度振った女の子のことを好きになる」と聞いたことはあるけれど、何かが劇的に変わることもなく、自分の気持ちもはっきりしないまま季節だけが流れた。美央も今まで通りに接してくるので、告白したことを忘れるなと言っておきながら、自分が忘れているのではと心配になるほどだった。  三年に上がってもクラスは同じだったけれど、環境が変わったせいか話す機会が減った。新しい友人と談笑する姿を横目に見ては、美央と距離ができた気がして、もう過去のことになったのだと勝手に決め付けた。 「お前、井下と仲良い? 去年も同じクラスだったんだろ」  司の前の席にいた池田が、突然振り返ったと思ったらそんなことを聞いてきた。 「普通だよ」 「俺、井下のこといいなってって思うんだけど、彼氏いるのかな」 「いないと思うけど……。本人に聞けば?」 「話したことないもん! ちょっと聞いてみてくんない?」  どうしてもと頼まれるので、気乗りしないが、聞くだけならと了承した。自分はこういう役回りの運命にあるのかもしれないと思った。  その日の放課後、司は美央をベランダに呼んだ。教室を出ようとしていたところだったが、美央はすぐに引き返して小走りで寄ってくる。なんだか嬉しそうにも見えた。 「何?」 「あー…のさ」 「何よ」 「池田のこと、どう思う?」  美央の表情が固まった。 「どうって?」 「池田が、井下と仲良くなりたいんだって。だから……」  美央は俯いて僅かに体を震わせた。そして、 「わたしの気持ち知ってるくせに、よくそんなこと言えるわね!」  司は叫ばれたことにも驚いたが、美央がまだ自分を想っていたということに驚いた。傷付けたと後悔しながら嬉しくもあった。   当然のことながら池田には言えるはずもなく、その後、池田が積極的に美央にアプローチする姿を見た。池田が美央に振られたと噂で聞いたのは間もなくのことだった。
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