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「で、どこの会社に決めたんだ?」
「竹富建設」
「おっ! 大企業じゃん!」
「建設に興味あるから」
「内定祝いで茶の一杯くらいおごってやるよ。あ、でも俺も決まったんだよな。だから、やっぱりお互い様ってことでナシな。ちなみに俺、ミツバ商事」
「商社か、お前らしいな」
「完全にコネだけどな」
二人は駅の近くの古い純喫茶店に入った。一歩踏み入っただけで煙草の匂いが鼻をついた。隅の席に案内され、司はホットストレートティー、五十嵐はホットドッグを注文する。五十嵐がからかって言った。
「コーヒーは頼まないのか?」
「暫くコーヒーは見たくない」
「そういえばさ」
五十嵐は体の向きを変え、壁に背中をつけて足を組んだ。
「このあいだ、井下を見かけたんだけど。駅のパン屋の前の信号で。なんか泣いてるっぽかったんだけど、何かあったのか?」
おそらく司が別れ話を切り出した日のことだろう。司は僅かに顔色を変えた。五十嵐はそれを見逃さなかった。
「……ちょっとね」
「もしかして、別れた?」
「……」
「当たったの?」
「距離を置こうっていう話をした」
「なんで? なんで?」
「……もういいじゃないか、その話は」
「井下に気に入らないところがあったのか」
「違う」
「そうか、お前に他に好きな奴でも出来たんだろ」
「……違う」
「その言い方は図星だな。どこの誰?」
「うるさいな、ほっといてくれ」
五十嵐は司の言葉に全く耳を貸さない。
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