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就職先が決まったという報告をするため、大学のキャリアサポートセンターに行った。簡単なアンケートを書かされただけで数分で終わったが、出たところで丁度、美央と出くわした。あからさまにうろたえる司に、美央は明るく声を掛けた。
「CSに何か用があったの?」
「え……、就職決まったっていう報告に」
「あ、そっか。わたしも報告しなきゃ。わたしもね、受かったんだよ。地元の小さな会社だけどね。司は前に内定もらってたとこにしたの?」
「いや……受けたいと思ってたとこに、決まったんだ。だから前回受かった会社は断わって……」
美央からゆっくり笑顔が消えた。なぜ早く言わなかったのかと責められるかと思ったが、意外な反応があった。
「なーんだ! じゃあ、もう心配はいらないってわけね。よかったね」
「あ、ああ……ありがとう」
「あとで家に行ってもいい?」
さすがにそれには頷けなかった。
「美央、悪いんだけど……あの……こないだの……」
「わたしはまだ認めてないわよ」
「だけど、どうしようもないんだ。美央のことは好きだよ。でも」
「好きなのに、どうして距離を置くの? 大丈夫、司がその人の傍にいなくてもいいって思うまで待ってるから。だから、今まで通りにしようよ」
「……辛いよ」
「わたしがいると、その人と堂々と付き合えないから? わたしが邪魔だから?」
「俺のことはどうでもいいんだ。これ以上美央を傷付けるのが辛いんだよ」
「わたしがいいって言ってるんだから、いいのよ。あとで行くからね」
司の返事を待たずに美央は去った。今まで美央は司の意志を無視した行動はしなかった。
やはりはっきり言うべきだった。
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