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Ⅰ
彼女の美央からふいにされた過去の恋愛についての質問は、司にとって答えにくいものだった。
美央とは高校三年の頃から付き合い始めて三年になる。司のプライベートには干渉しないし、嫉妬を剥き出しにすることもなく、それでいて司への愛情表現は忘れない、美央は出来た彼女だった。過去の恋愛事情についてもこれまで一切聞かれたことがなく、興味がないのだろうと思っていたので「今までどんな人を好きになったの」と聞かれて驚いた。
初恋は小学生の頃で、それ以降は全くないと答えた。美央は半信半疑だったが、付き合ったことがあるのは美央が初めてだと言ったら満足したようで、それ以上は追求されずに済んだ。
初恋が小学生だったのは事実だが、本当はもう一人好きになった人がいる。 むろん、特別な関係にあったわけではないし、ただの片思いで終わったものだ。言ったところで差支えはないだろうが、どんな人かと問われると面倒な相手だった。
あれからもう何年経っただろう。忘れていたつもりだったのに、当時の記憶を鮮明に思い出すようになったのは、美央のその些細な質問がきっかけだった。
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