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いつもは秋になると金木犀の香りが漂うのを楽しみにしていた司だが、今年はなぜか金木犀の香りに気付くことがなく十一月も後半を迎えた。もう汗ばむこともなく、上着がないと寒い。だがコートを着るほどでもなく、日によっては薄いジャケットで間に合う暖かい日もある。妙な天候ながらも、頬に当たる風は日に日に冷たくなり、確実に冬に向かっていた。  このところ美央は部活や授業の課題に追われ、休日は休日で先送りにしていた友達との予定が詰まっているらしい。大学でも外でも会えない日が続いた。時々授業中に美央から暇つぶしのメールが入る。ちょっとした近況報告はメールで、夜は必ず電話で話をする。毎日声は聞いていると言っても、実際に会わないと物足りなく思った。もし就職後に遠距離になったら、こういうことなのかと実感する。  そうなると自然に松岡との時間が増えた。ここ最近は毎週のように会っている。車でどこかに出かける日もあれば、何もすることがなくて家で過ごす日もある。本を読んだりDVDを観て他愛のない会話をするだけだ。時々手が触れたり、戯れのようなキスをする。子どもっぽい付き合いだ。手放しで喜べない関係なのは承知している。美央のことを考えると複雑な気持ちにもなる。それでも絶対に成就するはずがないと思っていた片思いが六年越しに実現したことに、嬉しさを噛みしめないわけにはいかなかった。
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