秘密の理科準備室

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 矢吹のことを好きになったきっかけは、去年のある冬の日の放課後。  担任から頼まれて断りきれなかった資料の作成を一人残ってしていたら、学校に忘れ物をした矢吹が現れ、手伝ってくれたという、我ながらごくごく単純なもので。  矢吹は元々人懐っこくて気さくな性格だから、何の気なしに手を貸してくれただけなんだろうけど。  その日から少しずつ話す機会が増え、たまに私が先生から押し付けられた雑務を手伝ってくれるようになり、気づけば完全に好きになっていた。  告白は、できない。  だってー  ほら、来た。  グラウンドの端にスポドリを持って腰掛ける、小柄でロングヘアの女子。  そう、矢吹には中学の時から付き合っている彼女がいる。  それも私とは正反対の、容姿も性格も、いかにも女の子らしいコ。  勝ち目なんて全くないし、挑もうとも思わない。  私は、矢吹の、彼女を大切にするところも好きなんだから。  こうして今日も誰にもバレずに、思う存分矢吹のことを眺められる。  はずだった。  『彼』が現れるまでは。
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