鬼のパンツ

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鬼のパンツ

 ある城に、鬼のパンツがお気に入りの、かわいい姫君がいました。鬼のパンツはとても丈夫で、村の童子たちと川遊びをするときも、藁で編まれた小さなゴザで、土手を滑り下りるときも、姫君に怪我をさせませんでした。  時が経ち、おてんば姫が年頃になると、方々の殿方から文や贈り物が届けられるようになりました。父上様も母上様も、早くお相手を選びなさいと、姫をせっつきました。  そんなある夜、縁側まで出ておぼろ月を見上げていた姫が、ふいに、「のう、鬼よ……」と、つぶやきました。けれど、それっきり、黙ってしまいました。鬼のパンツは、言葉の続きがとても気になったのですが、黙っていました。パンツの身で姫様と言葉を交わすことなど、許されないことと思ったのです。    それからしばらくして、姫君は遠い領地の若様のもとへ嫁いでゆきました。  ですが、嫁ぎ先でも姫が鬼のパンツをはいていたために、御子ができず、ほどなく姫は離縁されました。  姫は故郷の城に戻り、ひっそりと暮らしました。やがて父上様も母上様もお亡くなりになり、よりどころを失った姫は、幼い頃によく遊んだ河原で、自害しました。  友だちとして、身分の分け隔てなく一緒に遊んだ村人たちは、姫をふびんに思って、御遺体を火葬にしました。  煙を囲んで皆で見送っていると、煙のなかに人影が現れました。姫でした。驚いて立ちすくむ友人らに、姫はにっこりして手をふり、それから隣を振り向きました。りりしい若者の姿がそこにありました。  その若者の頭には、角が1本、生えていました。  姫と若者は煙のなかで向かいあい、手をとりあいながら、しあわせそうに天へと昇ってゆきました。
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