三つの願い

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 逡巡する男の様子を魔人はニヤニヤと笑いながら眺めた。バカな人間だ。素直に最初から現金が欲しいと言えばいいものを、浅はかな知恵をめぐらせるから余計に悩むことになるんだ。まあどうせ次の願いで金を要求してくるのだろうが……。  よし。やっぱり金だ。願いがひとつ無駄になろうがかまわない。金のなる木もいずれは金になるんだからまったくの無駄ではないだろう。と、考えていた男は魔人の表情の変化に気づいた。こちらを見る目。自分を蔑むような眼差しは、まるで胸のうちを見透かされているように思えた。それは彼の小さなプライドを刺激することになった。単純に金を要求するのは止めだ。代わりに金のなる木をなんとか活かす方法を考えよう……。 「そうだ。次の願いを言ってもいいか?」 「ああ、もちろんだ」 「今出してもらった金のなる木。その成長速度を尋常じゃないほど早くしてほしい」  それを聞いた魔人は、意表を突かれたかのように「ほう」と息を漏らした。 「いいだろう。お安い御用だ」  魔人が指をぱちんと鳴らすと、金のなる木は見る見る伸び始め、三メートルほどの高さに成長した。それから枝々に見たこともない無数の花が咲き乱れたかと思うとそれらはあっという間に散り、そのあとにはバレーボールほどの大きさの実がなった。  男は木に近寄り、その実をひとつもいだ。それを割ってみると、中にぎっしりと紙幣が詰まっていた。 「金だ!」  それを鷲掴みにすると、男は思い切り天に向けて放り投げた。札の紙吹雪がひらひらと舞い、地面に落ちていく。それを拾うことなく、彼は高笑いをしながら次々に実をもいでいった。   その騒ぎに男の同業者が気づいた。彼と同じく公園に寝泊りする連中だ。集まってくる薄汚れた男たちに、彼は金の詰まった実を分け与えた。  ひと通り配り終え、辺りが静かになったところで男はあることに気づいた。先ほどばら撒いた紙幣が落ちた場所から芽が出ているのだ。その芽は見ているうちにどんどん大きくなり、1メートルほどの苗木になった。それぞれの苗木は競うように成長し、3メートルほどの高さになると花が咲き、実がなった。 「おいおい。こりゃどういうことだ?」 「金はいわばその木の種だ。種が土に落ちれば、そりゃ芽も出るさ」  そんな短い会話の間に、熟した木の実は次々に地面に落ち、その衝撃で割れて中から紙幣があふれ出た。風が吹くとそれらはばらばらに飛ばされ、公園のあちらこちらに芽を出した。男は実が地面に落ちる前に回収しようと片っ端からもいでいくものの、一人の手だけでは限界があった。
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