三つの願い

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 魔人は慌てふためく男の様子をほくそ笑みながら眺めていた。三つの願いの結末は、かならずこうなるんだ。愚かな人間は欲望を叶えようとして失敗し、それを挽回しようとしてさらに取り返しのつかない状況に追い込まれ、最後の願いで元通りにする。結局願いを叶えた奴の手元には何も残らない。だから願いは三つがちょうどいい。  さて、さすがに間抜けなこの男でも、このままほうっておけば最悪の事態を招くってことくらいはわかるはずだ。あいつは最後にどんな願いを口にするのだろう……。  金のなる木は猛烈な勢いでその数を増やしていった。そこから生み出される無尽蔵の紙幣によって、まずは金が無価値なものに変わった。それが引き金となり、世界経済は大混乱を来たした。だがこの木の問題はそんなことではなかった。  尋常ではない成長速度。それによって金のなる木は他の植物の植生地を奪い、駆逐し、地上はすべてその木で埋め尽くされた。また金のなる木は水中にまでその種を撒き散らした。当初は芽も出なかったその木だが、やがて環境にも適合した突然変異体が生まれた。これもその成長速度がもたらした結果だった。そうなると困るのは動物たちだ。本来エサとしていた植物がなくなってしまったために草食動物は姿を消し、それを狩っていた肉食獣も死に絶えた。それは、人間にしても同じことだった。  やがて、金のなる木だけを残してすべての生命が途絶えた……と、思われた。  さて、さすがに間抜けなこの男でも、このままほうっておけば最悪の事態を招くってことくらいはわかるはずだ。あいつは最後にどんな願いを口にするのだろう……。  公園を駆けずり回っていた男はとうとう諦めた。腕に抱えていた実をすべて放り出すと地面に座り込んだ。その視線の先にも、どんどん成長を続ける金のなる木があった。通りすがりの見ず知らずの人々が風で飛ばされた紙幣を追い回している。  まずいぞ。このままいけばこの木は際限なく増えちまう。そうするとどいつもこいつも金持ちになっちまうじゃないか。それに、これだけ早く木が増えるということは、なんだかとてもヤバイことになりそうな気がする。じゃあどうすればいい?最後の願いでこの木をなかったことにしてもらうか……男はちらりと魔人を見た。ニヤニヤと笑うその顔が鼻についた。クソッ。なんだかあいつの手の中で遊ばれているような気がしてきた。こうなったら意地でもこの木をうまく活用してやる。彼は散々考えた挙句、ようやく結論を見出した。 「おい。最後の願いを言ってもいいか」 「もちろんだとも」 「俺の体を、金を食って生きていける体にしてくれ」  むぅ……と唸りながらも、魔人は指をぱちんと鳴らした。
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