「恋の三角関数を解く16歳の少女」

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「恋の三角関数を解く16歳の少女」

 穂乃花は着席して自習を始めた。暗記教科に過ぎない理科と社会をやっても効率が悪いので、苦手な数学の復習。サイン、コサイン、タンジェント、三角関数だ。バカではないから数学の理屈が分からない訳ではない。公式さえ覚えれば問題を解くことは出来る。  問題なのはこんなモノを一体受験以外でいつ使うのかと云うことだった。将来決して使うことの無い数式。そんなモノに、貴重な青春の時間を浪費させている大人達は、自分達学生を虐待しているとしか思えない。  三角関数は覚えたので、穂乃花は「恋の三角関数」を考えてみる。  サインに該当する自分はコサインの御手洗先輩に恋をしていたが相手にされなかった。でもどうでも良いタンジェントの男子達には可愛いと思われて色目を使われる。  コサインの御手洗先輩は自分のことなどどうでも良かったが、タンジェントの男子達から仲間外れにされたくないから良い奴として振舞う。けれども、ゲイ以外の男子達にとって御手洗先輩はどうでも良い存在に違いない。  タンジェントのその他大勢の男子は穂乃花と付き合ってみたいと思っているが、穂乃花にとってはどうでもいい。  つまり好意を持つとフラれるから、3者は永遠に結び付くことは無い。恋愛物で三角関係が描かれる理由だ。タンジェントは同性の仲間達を意味する。もしもサインとコサインが結び付けば、同性の仲間達は二人を突き放す。カップルは「バカップル」と揶揄(やゆ)される理由。  逆にコサインと結ばれるのを躊躇い、同性の仲間のタンジェントばかりと遊んでいたらどうか。いつまで経っても、異性の相手は寄って来ない。年齢など構わずに「女子」と称して、互いに寄り添い合うアラサーアラフォーの女性がどうして男性達からモテないかは、恋の三角関数を使えば明らかだ。自分に興味を示さない異性など、何の意味も無い。  しかし、ここで問題になるのはタンジェントが女子の場合である。女子のサインである穂乃花は男子のコサイン御手洗先輩にフラれた。でもタンジェントである女子は誰も穂乃花の味方になってくれない。2年生の穂乃花と友達になってくれる女子はクラスにまだ居ない。 (私、一人ぼっちじゃん) 三角関数の中でも一番難しい「孤独」と云う問題だ。ノートにこの問題を書いた穂乃花は、どうして一人ぼっちなのかを考えてみる。彼氏や恋人が出来ないのは仕方ないにしても、友達すら居ないのはあまりに悲しい。 (嫌だ、こんなんじゃ学校に行きたくないよ……)
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