「圧しつぶされる16歳の少女」

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「圧しつぶされる16歳の少女」

 6限目が終わり、部活動が始まった。  体育館でバスケットボールの練習試合をしていた際、相手チームが仲間に投げたパスに割って入り、ボールを奪い取ろうとした瞬間、穂乃花の中指を先端から籠球(ろうきゅう)が圧しつぶした。悲鳴は出なかったが、あまりの激痛に苦悶の表情を浮かべ、右手を庇いながらその場にしゃがみ込むと、すぐに顧問や仲間達が穂乃花の下に駆け寄った。犯人である籠球は、気まずくなって穂乃花から離れるように、体育館の木板を転がって被害者から遠ざかって行った。  突き指だ。  穂乃花は早速他の女子の付き添いで保健室に行き、保健室の先生から患部を冷凍庫の氷で冷やされた。付き添った仲間達は穂乃花の身を案じながらもすぐに退室して行った。患部が冷却されていくと、肉眼でも少し凹んでいるのが分かる中指の第3関節の痛みがやわらいでいくが、代わりに普段から付き合っている肘や膝の関節の痛みが蘇ってきた。これなら、ずっと突き指の痛みに襲われていた方が楽だったかもしれない。  しかも、明日の体育の授業はバレーボールと聞かされている。突き指になった瞬間は痛かったが、もう痛みが引いているから大したことないのは自身も分かっている。普段はそれなりに楽しい体育の授業が、前日から億劫に感じざるを得なくなった。  保健室の先生は穂乃花の母親に電話すると、穂乃花がバスケットボールで右手の中指を突き指したので、今日は部活動を早退して、近所の整形外科に行って検査を受けるように促した。  穂乃花は保健室の先生から貰った透明の少し硬いビニールに充満させられた冷却ジェルで右手の中指を冷やしながら、体育館に残る顧問の下まで出向いて早退の許可を貰い、体育館から出て行った。何事も無かったかのように体育館で練習しているバスケ部の仲間に目をやると、穂乃花は自分だけ除け者にされたように感じた。
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