「見捨てられた16歳の少女」

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「見捨てられた16歳の少女」

「大したことないね」  整形外科医は穂乃花の突き指を容易く治してしまった。しばらく安静にしろと言われたが、明日はバレーボールの授業がある。出来れば休みたいが、先生相手には言いづらい。指を使うからピアノもやりたくない。だが母は穂乃花が大学に進んだ後もピアノを続けさせたいと息巻いている。やる気の無い生徒と思われて、通知表を悪く書かれるのではないか? そうなったら、母の逆鱗に触れてしまう。母は父よりも恐くて、テストの点数は勿論、偏差値の高低や通知表まで気にしてくる。或いは、休むのはダメと体育教師から叱責されるのではないか?  華麗に指が治った後の方が、穂乃花の不安は強くなった。  だが一緒に診察を聞いていた穂乃花の母は、整形外科医の言葉にすっかり安心して、このまま家に帰っても食事も用意出来ていないから、ちょっと早いが予備校に行って自習して来いと言ってきた。学校に来た直後は心配してくれたが、治った後は見事なまでに掌を返した。  親に言われた通り、車でそのまま予備校に運ばれた穂乃花は仕方なしに自習室に入った。母は娘が予備校に入るのを確認すると、とっとと車を発進させて行った。  穂乃花は自分と同じように、手を負傷した学生が居ないか、勉強机に座らされる前に探ってみた。全ての学生の手は見事なまでに綺麗か、ノートに書かれた鉛筆かシャープペンシルの黒鉛で右手の鉄槌を黒く汚していた。  時折、男子学生達が、制服のミニスカートを穿いた穂乃花の足をなめるように見てくる。高校に上がってから、男子の目線が自分の股間や露出した足に向けられるのを明確に感じるようになって、男子が気持ち悪い。  この自習室に限った話ではない。学校の教室でも廊下でも、外に出れば世の男性達が皆、自分の顔や胸、足を見つめてくる。可愛い私と交尾したいと言いたげな嫌らしい目付きで。男達に見つめられていると、穂乃花は自分が親から見捨てられたように感じた。
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