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私はゾンビのように、ぬるっと立ち上がり、ふらふらとキッチンに
向かう。
食卓には、お皿いっぱいに並ぶ、黄金色のきつね寿司。
懐かしいおばあちゃんのきつね寿司だった。
素手できつね寿司を掴むと、口へ運んだ。口に入れた瞬間、お揚げの
甘酸っぱい香りが口中に拡がる。咀嚼すると、刻んだれんこんとかんぴょうが
しゃりしゃりと心地良いリズムを刻む。
私は両手できつね寿司を掴み取り、次々と口に運んだ。
おいしい、ああ、美味しい。
懐かしくて優しい、夢にまで見たきつね寿司。
その美味しさが体中に拡がり、私の心を少しずつ癒やしていく。
私は夢中で食べた。むせて咳き込むと、お母さんが私の背中を撫でた。
「座って食べなさい。お茶を入れるから」
優しい笑顔。おばあちゃんと同じだった。
「おばあちゃんにね、作り方を習っていたの。でも仕事が忙しくて
作る暇がなかった。これからは私が作るし、佳奈に作り方を教えるわね。
お母さんね、仕事辞めたの。これからは佳奈の側にいるわ。
今まであなたに甘えすぎてた。ごめんね」
「お母さん、私のこと怒ってないの?」
「優しい佳奈を、怒れるわけないでしょ? 怒るとしたらお母さん自身によ」
私はまた、泣いた。今度の涙は少し違う。泣けば泣くほど癒やされて
いくのを感じた。
「落ち着いたら、おばあちゃんに会いにいきましょう。あなたにも
会いたがっているから」
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