春雷

隣の芝生は青く見える

轟く雷鳴。
耳につく女性の甲高い声。
人が人に出逢う瞬間。

全てが、俺の苦手とするもの。
そして、この女も苦手な部類に入ると思っていた。今日(こんにち)までは。

◇

スマホをバッグから取り出し、明日の予定と通勤特急の時間を調べる。大量の人が利用する駅を通り越し、列車内は驚くほど静けさを取り戻していた。
2番列車に揺られている俺は、スマホの通知に気づかず、ただ無機質なビル街を眺めながらひたすらに目的地である自宅へ帰ることを考えていた。
「何を食べようか」、「今日ドラマは何がやっているか」などと、世間一般に人間が究極な暇を持て余している時のような気持ちはこれっぽっちも起こらない。

そうしているうちに、また通知が来たことを知らせるバイブ音が鳴る。
たまたまズボンに手を突っ込んでいたから、今度こそ連絡に気づいた。

『明日の天気：雨(降水確率 50%)今年初の雷雨か』

月野(つきの) 尋(ひろ)、２９歳サラリーマン。社畜である。