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「お客様、大丈夫でございますか」
目の前の行員が心配げに金城の顔を覗き込んだ。
「は、はい」
頭は爆発寸前の興奮状態。二千万分の一という天文学的な確率を当てたのだから無理もない。
そんな金城をよそに行員は慣例通りに淡々と『その日から読む本』を金城に手渡した。
「本当に渡されるのですね、この冊子」
「そういう決まりになっております。大金を手にされたお客様がこれまで通りの有意義な生活を送っていただく道標として」
「ひとつお伺いしてよろしいでしょうか。高額宝クジに当たったことが他人にばれて生活破綻した話を良く聞くのですが、本当でしょうか・・・」
「私どもには守秘義務がありますから具体的な話は差し控えさせてください。その辺りのことはお渡しした冊子をご覧ください。今は気が高まっているかも知れませんが、くれぐれも他言、散財はなさらず、いつも通りの生活を続けられることをお勧めします」
「ありがとうございます」
金城はそう礼を言うと銀行の応接室を後にした。
「なるほどね、結局は派手に金を使うから、派手な振る舞いをするから、そこから足が付いて他人の知るところとなって宝くじを手にした情報がネズミ算式に拡散。砂糖に群がるアリのごとき攻撃にさらされるってことか」
金城はそれから何も変わらない生活を続けた。
でも、ある日思った。使えない金にいったい何の価値があるのだ。そもそも、自分が使うから皆に妬まれて被害に合うのだ。それに・・・。浪費癖がついて金が目減りした後も高騰した生活水準を下げられず、自己破産に陥るのだ。
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