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舞い込んだ幸運
「当選おめでとうございます」
金城金戸(きんじょうかねと)四十一歳は、銀行員のその一言で我に返った。名前は金が二つも連なる金運姓名、だがしかし、金運は親がくれた名前だけ。これまで、金に恵まれたことは一度もなかった。そう、今日のこの時を迎えるまでは・・・。
金城の大学卒業時は就職氷河期のど真ん中。正社員にはなれず、契約社員として勤め出すものの雇い止めの憂き目に何度も合い、何度も辛苦を舐めてきた。
一か月前のことだった。その日も解雇を言い渡され、夜の街を意識もうろうとした状態でうろついていた。
「このジジイ、ちゃんと前向いて歩け」
自分と同年代のリーマンらしき四人組の男達が初老の男性に食ってかかっていた。 失うものは何もないしな。助けてやるか。でも、どうやって。そう思って気が付いた。オレ、今日、交通整理のガードマンを解雇されたんだっけ。
「警察だ」
金城はそう叫ぶと、持っていた笛を「ピー」と吹き鳴らした。
四人組の男達は蜘蛛の子を散らすように消え去った。
「このジジイを助けていただきありがとうございます。出来ればお名前と住所をお聞かせいただけませんでしょうか」
「いえいえ、結構です。名乗る程の者ではございませんから」
「すいません。お礼したくても、今は持ち合わせが。こんなものでも良かった・・・」
そういうとジジイは数十枚の宝くじを金城に手渡した。
「え、宝くじ。でも、なんで何十枚も・・・」
金城が顔を上げると、そこにもうジジイの姿はなかった。
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