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我王丸「ぬぉぉ!!!」
相撲と言っても現代のお行儀の良い物では無い。倒せば負けは同じだが鉄拳 足刀 目潰しなんでもありの決闘である。
我王丸「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」
この相撲が仕事の我王丸が唸り声を上げながら鉄拳を連発!
「くっ...」
男は闘士では無い。しかしその血に流れる狩猟民族の本能が我王丸の拳を躱す。
我王丸「おのれぇ!!」
手打ちの技では埒が明かないと体ごとぶつかって行く。
バッ!!
次の瞬間屋敷の空に黒い影が舞う!
信長「ガハハハ!!まるで牛若丸ではないか!」
男の軽やかな跳躍に信長は上機嫌。
「はぁ...はぁ...」
毎日酷い扱いを受けている男の体力は直ぐに底を突く。肩で息をする男に我王丸が襲い掛かる!
ガッ!!
咄嗟に手を出し手四つで組み合う我王丸と男。
これで何人もの力士をねじ伏せて来た。
しかしこの日 我王丸が感じたのは未体験の怪力
我王丸「ぐぁぁぁ...」
男の背中 肩 腕の黒い丘陵が盛り上がっていく。
メリメリメリメリ...
繋がった手が握り潰されそうだ!
我王丸「あぁぁ...」
大男が膝を着き まるで神に懺悔する様な形に潰される。
手を離し息も絶え絶えの我王丸を見下ろす男の目に危険な光が宿る。
故郷での教え 例え瀕死の獲物でも決して油断するな 手負いの獣は何をするか解らない。最後まで丁寧に気を引き締めてトドメを刺せと。
足を振り上げそれを倒れる我王丸の首に突き刺す!!
この一撃で我王丸は動けない。
信長「見事...ガハハハ!!我王丸が赤子扱いではないか!」
興奮した信長はついさっきまでお気に入りだった我王丸に一瞥もくれず庭に降り立ち男の肩をバンバンと叩く。
信長「こんな益荒男を侍らせておる大名は他におるまい!おい!ヴァリニャーノとやら!他の品は要らん!こやつをくれ!金子は幾らでもくれてやる!」
一同に驚きの声が上がる!
「殿!左様な得体の知れぬ者を召抱えると?」
信長「そうだ!何か文句でもあるのか?」
意見を挟んだ配下を一睨みで黙らせ再び男と向き合う。
信長「名は?」
男「ア...ウゥ...」
信長「無いのか!ならば儂が与えてやろう!ふむ...これからは儂の傍にあり何があっても矢の様に飛んできて助けろ!異国から飛んで来た黒い矢 お主はヤスケと名乗れ!のうヤスケ!!」
戸惑う男に通訳という肩書きの猛獣使いが事の顛末を伝える。お前の名は今日からヤスケだと。
「ヤスケ...」
信長「そうだ!おい!蘭!!こやつの面倒を見よ!日ノ本言葉も教えろ!任せたぞ!ガハハハハハハハハ!!」
もう次の事に興味が次の事に移ったのか新しい主人はヴァリニャーノ達を置き去りにして奥御殿に消えて行った。
獅子の様な男に変わってするりとヤスケの前に現れたのはほのかに花の香りが漂うまるで女子と見紛うような美少年。
名を森蘭丸 信長の忠臣 森 長可の息子にして小姓を務める美少年。
蘭丸「初めてお目にかかります。蘭丸と申します。ヤスケ殿」
ヤスケ「???」
蘭丸「ラン ラン ラン」
目の前の美少年は己を指差し何度もランと名乗る。赤子に何かを教える様にゆっくりと 慈しみを込めて何度も何度もヤスケに問い掛ける。
ヤスケ「ラン?...」
蘭丸「そう ラン ランでございます!これからよろしくお願い致しまする。」
本人の意志とは関係なく男 改めてヤスケの運命は激しく流転していく。
ヤスケ 彼の降り立ったのは天正九年 日本。
戦に島国が揺れ破壊と創造が絶え間なく繰り返された苛烈な時代!
そんな時代で異質の侍となるヤスケの物語が今始まろうとしていた。
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