ゴールデンウィークの十連勤

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「あ"ぁ"ぁ"・・・」 痛む腰を押さえ呻くと、僕しか居ないと思っていた夜10時の社内に、鈴を鳴らしたような凛とした声が響いた。 「大丈夫ですか? 湿布、要ります?」 顔を上げると、ほっそりとした女性的な腰付きに、白い肌。ワインレッドのフレームの眼鏡の奥には、切れ長の目が僕をサクッと見つめている。 肩より少しだけ長い髪の毛は丁寧に後ろでひとまとめにされ、少しだけ乱れた耳の辺りの髪の毛が、どこか官能的な印象を受ける。 「・・・あぁ、ありがとう」 僕は軽くお礼を言ってから、湿布を受け取る。 えっと名前は・・・、なんだったっけ? たしか・・・えっとー・・・。 「佐藤さん」 「はい?」 「あっ、いや、呼んだ訳じゃなくてね・・・」 慌てて手を振ると、佐藤さんは怪訝そうに目を顰め、そのまま斜め前の彼女のデスクに戻ってしまった。 その日は11時に退社した。
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