ゴールデンウィークの十連勤

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「かーじかわさーん」 「・・・なに?」 呼ばれて振り返ると、しっぽを振ったチワワ・・・じゃなくて笑顔の櫻井がいた。 櫻井はニヨニヨと薄い唇を窄める。 「へへへ~~~、梶川さん佐藤さんのこと狙ってるらしいですね~」 「はいはい、どうせ保木本情報だろ?」 「なんでわかったんですか!!」 櫻井は驚いたように口に手を当てる。 「別に、お前が保木本とやけに絡んでるからそう思っただけだ」 「そうなんです。実は保木本さん狙ってて」 聞いてもいないのにご丁寧なやつだ。 櫻井の言うことを適当に流して、僕は席を立つ。 ちゃんと聞け、と櫻井が抗議の声を上げるが、無視した。 「ねぇ、聞いてくださいってば」 「何を? 僕は今十連勤の事を思うとイライラして人の話を聞いてる場合じゃないんだ」 「ちぇー! イライラは人の思考力を鈍くさせるんですよ。効率よく立ち回らないと行けない時こそ冷静にしなきゃなんないんですから」 「つまり何が言いたいんだ?」 「話を聞けってことです」 僕はため息をついて櫻井の額を人差し指で弾く。 櫻井がいたっ、と目を瞑った。 「悪いが話を聞く余裕は、ない。何故なら僕は今まさに恐怖の十連勤の真っ只中だからだ」 そう言ってお茶のおかわりを入れようと会社備え付けのキッチンへと足を運ぶ僕の後ろから、「そんなの私もですよォ~~」と泣きごとが聞こえてきた。 ちらりと壁にかかった時計を見遣ればもう夜の10時近い。 「はやく帰れよ。女の子は夜遅くなると危険だからな」 「えっ! 梶川さん私のこと心配してくれてるんですか!?」 櫻井の大袈裟に驚いた声が聞こえて、僕は顔をしかめる。 「違う。お前なんかを誘拐して逆にボコボコにされる犯人が可哀想なだけだ」 そう言うと、空手2段の黒帯彼女は肩を竦めた。
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