ゴールデンウィークの十連勤

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「「あ」」 キッチンへ行くと、噂をすればなんとやら、佐藤さんがいた。 佐藤さんは僕を見ると、軽く会釈をする。 どうやら目的は僕と同じようだ。 「コーヒーお好きなんですね」 「え?」 「へ?」 思わず話しかけてしまい、佐藤さんが目を丸くした。 「あっ、いえ、この前は湿布、ありがとうございました」 慌ててそう付け加えると、佐藤さんは「あぁ」と思い出したような顔をして、コクリと頷く。 「別に、いいですよ。腰は治りましたか?」 「お陰様で」 それだけ話すと、彼女は早々に立ち去ってしまう。 なんだか、こんなコミュニケーションも仕事の内だ、という雰囲気があった。 仕事だからしている。 僕らとコミュニケーションをとることで、少しでも息をしやすいようにしている・・・のだろうか? 確信のない答えに心で肩を竦めながら、電気ポットのロックをオフにした。 その日はたまたま10時半まで残業だった。 地獄のゴールデンウィークも折り返し地点に差し掛かった日の夜。 「「あ」」 たまたま偶然、会社のビルの1階にあるコンビニへよると、佐藤さんに出会った。 「・・・こんばんわ」 佐藤さんはぺこりとお辞儀をする。 手に持っているビニール袋からはビールが1本と片栗粉、卵にそれから・・・なんだろう焼肉のタレだろうか? それから白ご飯が薄く透けていた。 佐藤さんとミスマッチなそれらの食材を交互に見つめていると、彼女は静かに口を開いた。 「・・・もし、もうすこしだけ残業するなら、付き合ってくれませんか?」 そう言って彼女はビールの入った袋を掲げた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加