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「「あ」」
キッチンへ行くと、噂をすればなんとやら、佐藤さんがいた。
佐藤さんは僕を見ると、軽く会釈をする。
どうやら目的は僕と同じようだ。
「コーヒーお好きなんですね」
「え?」
「へ?」
思わず話しかけてしまい、佐藤さんが目を丸くした。
「あっ、いえ、この前は湿布、ありがとうございました」
慌ててそう付け加えると、佐藤さんは「あぁ」と思い出したような顔をして、コクリと頷く。
「別に、いいですよ。腰は治りましたか?」
「お陰様で」
それだけ話すと、彼女は早々に立ち去ってしまう。
なんだか、こんなコミュニケーションも仕事の内だ、という雰囲気があった。
仕事だからしている。
僕らとコミュニケーションをとることで、少しでも息をしやすいようにしている・・・のだろうか?
確信のない答えに心で肩を竦めながら、電気ポットのロックをオフにした。
その日はたまたま10時半まで残業だった。
地獄のゴールデンウィークも折り返し地点に差し掛かった日の夜。
「「あ」」
たまたま偶然、会社のビルの1階にあるコンビニへよると、佐藤さんに出会った。
「・・・こんばんわ」
佐藤さんはぺこりとお辞儀をする。
手に持っているビニール袋からはビールが1本と片栗粉、卵にそれから・・・なんだろう焼肉のタレだろうか? それから白ご飯が薄く透けていた。
佐藤さんとミスマッチなそれらの食材を交互に見つめていると、彼女は静かに口を開いた。
「・・・もし、もうすこしだけ残業するなら、付き合ってくれませんか?」
そう言って彼女はビールの入った袋を掲げた。
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