接触

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 彼女にとって、それは単なる気紛れだったのかもしれない。地上から遠く離れた地の底に存在する、切り捨てられた地底の土地。かつて地獄と呼ばれたかの都、今では地上を追われた魑魅魍魎が住まう旧都と呼ばれる土地の中心、未だ蔓延る無数の怨霊と使われる事の無くなった灼熱地獄跡を管理する為に建てられた建造物。  地霊殿と呼ばれる建物の主人、古明地 さとりの、気紛れとも興味本位とも取れるその行いが、地底を混乱に陥れる異変の原因となる事に、彼女も、そして異変の首謀者となる彼も、その時はまだ知る由もなかった。  古明地 さとりにとって、その行いは、人間が捨てられた猫や犬を拾うと同意義の事だった。書庫の本を読み漁り、その息抜きがてらに地霊殿の庭を歩いていたさとりの視線の先に、彼女がペットとして飼っていた動物達とは異なる生き物が横たわっている事に気付いたのが、事の発端である。人間、それも幻想郷の住人ではなく、外の世界から流れ着いた外来人と呼ばれる人間である。  外来人、それは、この世界とは異なる外の世界から迷い込んだ者達の総称とされ、簡単に言えば、彼等は幻想郷のパワーバランスを一定に保つ為に、妖怪の賢者である隙間妖怪 八雲 紫に神隠しとして連れてこられた贄と言ってもいいだろう。  彼等が贄と呼ばれるその理由は、幻想郷に住まう妖怪達の糧とする事で妖怪達の尊厳を維持し、そして幻想郷の人間達の総数を減らさないようにするという名目で集められた事からきている。近年では、この幻想郷という非現実的な環境に適合し、住人達と生活を共にする外来人も出始めていると、地上にふらりと出かけた妹、古明地 こいしが土産話に語っていた事を思い出しながら、さとりは改めて青年の姿を観察した。  こいし曰く、彼等は皆、幻想郷の住人達が身に纏う衣装とは異なる多種多彩な服装をしているという。確かに、いわれてみれば青年の服装はこいしが話していた地上の人里と呼ばれる人間達が住まう集落の人間達とは異なる服装をしている。更に、彼等は幻想郷の住人達が持ち合わせていない数多くの知識、それも近未来的な知識を数多く有していると聞いた事もあった。  遥か過去に袂を分かった外の世界からの来訪者と思わしきこの青年。幻想郷という世界が確立したその後の世界。
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