接触

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「どうですか? 先程、私が話した事も少しは信憑性が出てきましたか?」  少し意地悪く問い掛ける。 「……はい。確かにこれは、僕がこれまで生きてきた中で初めての体験ばかりだ。それに……」  それにと、修市の視線が地霊殿の庭で寛ぐ動物達へと注がれる。廊下を歩いていた時もそうだったが、この地霊殿には様々な動物達がいて、修市が見た事もない様な動物や、かつて絶滅したとされる動物まで、肉食動物も草食動物も関係なく地霊殿の至る所で寛いでいた。 「この子達は私のペットです。先程、地霊殿の廊下にいた子達も含めて、この地霊殿の至る所にいます。そして……」  と、他のペット達が道を開ける。その先には、少し前に修市を客室に運んだふさふさの毛が印象的な犬が一匹、さとりに尻尾を振りながら近付いて来た。 「今から日野さんに見せるのは、この幻想郷では当たり前の存在、妖怪の存在を証明したいと思います」  そう言って、先程の犬を手招きして自身の隣に並ばせたさとりは、犬に何か耳打ちすると、ニコリと笑みを浮かべながら修市へと視線を向けた。 「はい。先程、日野さんは私の発言、妖怪の存在を信じる事が出来ないと言っていました。確かにその通りです。実際に目にしない限り、私の言葉を信じる事が出来ないのは当たり前です。貴方の世界の常識において、私達の存在は非現実的な存在。ですが、この幻想郷では現実であると、それを証明する上で、この子が最も適任でしょう」  饒舌に語るさとりの表情は、順序良く物事を進めるには言葉ではなく実際にそれを証明する材料が必要だったのかと、そう確信したような表情だった。 「良いですか。今からこの子が人の姿に変化します。この子の名前はクロ。送り犬という妖怪です。他の子達は力が未熟な為、人の姿になる事は出来ません。ですが、この子は特別です。何故なら、日野さんを客室まで運んだのはこの子なんですから」  まるで自分の事の様に自慢げに話す。 「え、この子が僕を?」  このふさふさした毛が印象的な愛玩動物がどうやって運んだというのだというのが修市の意見だが、この地下世界と地霊殿を見た後では、さとりの言葉にも信憑性がある。少し前に、この地霊殿には自分しかいないと言っていたが、最初は使用人の誰かが自分を客室まで運んでくれたのだろうと思っていたが、まさかこの子が運んだのか。はたして、この子が人の姿になったら一体どのような姿になるのだろう。
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