接触

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 そう思い、新たな発見を間近で目撃出来る期待に胸を膨らませる修市を余所に、犬の姿のクロから発せられた言葉は、思いの外辛辣だった。 「おいお前、さとり様の言葉が信用できないのか? 喰われたいのか? それとも灼熱地獄跡の燃料にされたいのか?」 「え、喰われたいかって……え、燃りょ……え?」 「お前、言葉の意味が分からないのか? 馬鹿なのか? それとも無知ってやつなのか? どちらにしても、さとり様の迷惑をかけるような行為は僕が許さn……」 「クロ、駄目ですよ。日野さんは目を覚ましたばかりで聊か混乱している様です。それに、他にも色々と事情がありますので、その件は後で詳しくお話ししますからその辺りで許してあげて下さい」  犬の状態のまま、器用に毒舌を吐くクロの口を押える。それでも何かを訴えるような目で見つめるクロに、大丈夫ですから落ち着いて下さいと宥めながら、コホンと一つ咳払いをすると、話しを戻しますと口から手を離した。 「この通り、クロは人間の言葉を話す事が出来ます。それだけでも納得するには十分な材料になりますが、それでも一度は見ていて損はないと思います」  人ならざる妖怪が人間になるその瞬間を。さとりの言葉にクロは渋々ではあるが了承したのだろう。犬の姿の為、判断材料としては心許無いが、恐らく睨みつけている様子で、修市の前に立ち、ふぅっと一息漏らす。  そして、クロの体が光に包まれたと思った次の瞬間、先程までクロがいた場所に、一人の少女が入れ替わる様に立っていた。目深帽子を被り、カジュアルな服装に身を包んだ少女。見た目はさとりよりも少し幼い雰囲気ではあるが、目深帽子からチラリと見えるその目は、やはり修市を睨んでいるようで、僅かに犬歯を覗かせ、威嚇している様だった。  まるでこれ以上さとりに失礼を働くようであれば容赦はしないぞと言わんばかりの敵意剥き出しのクロに、流石のさとりも苦笑を浮かべた。 「すいません。この子は決して悪い子ではないのです。なんと言いますか、この子は地霊殿における雑務全般の担当や番犬の様な役割も兼任していますので、部外者と認識した者に対して多少辛辣な対応を取ってしまうのですよ」 「あぁ、そういう事なんですね」
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