接触

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 つまり、修市はこの地霊殿にとって招かれざる客であり、飼い主であるさとりに危険を及ぼす可能性を持つ人物であるというのがクロの見解なのだろう。そう考えると、小柄ながらも自身の役目を全うしようとする心意気に、修市は内心、笑みをこぼす。無論、本人の前で笑った事には、恐らく噛み付かれるのだろうが。 「さとり様、もうそろそろ元の姿に戻ってもいいでしょうか?」  まじまじと見つめていたのが原因なのか、修市の視線に、クロは目深帽子で表情を隠す様に下げ、さとりに元の姿に戻ってもいいか問い掛ける。 「そうですね、日野さんにも妖怪の存在を証明する事が出来ましたので……と、そうでした。もう一つ、日野さんにお見せしたいものがありました」  と、そのままの姿でいる様にというさとりの指示に、クロは小さく唸って抗議する。人の姿でいる事に対し、苦手意識があるのだろうか?  そんな修市の疑問を余所に、クロに何かを告げ、その内容にクロは再び小さく唸ったが、渋々といった様子で了承した。人間の姿になる他に、一体何を見せたいのだろうと思う修市に、さとりは先程とは異なる柔和な笑みを浮かべ、クロの背後に移動した。 「実はですね、このように、動物の姿から人間の姿になる子達の特徴として、尻尾や羽、耳の部分などの一部が動物の姿のままなんです。この子の場合なんと、耳と尻尾が動物の時のままなんです」  そう言われ目深帽子を取られたクロの頭部に、ぴょこんと生えた犬の耳とズボンのお尻の部分からはふさふさの尻尾。そして特徴的だったのが、眉頭にだけ残った、所謂麻呂眉が、幼げな表情と相俟ってとても愛らしく映った。 「あ、さとり様、帽子は取らないでくだs「おや、可愛らしい」……」  さとりから帽子を返してもらおうと必死な表情を浮かべたクロの姿に、思わず正直な感想が口から洩れてしまった。  しまったと思った時には既に遅く、クロはみるみる顔を赤らめ、涙目で修市に飛び掛かった。 ―地霊殿 廊下―  夜、地霊殿の客室前。廊下の窓から一望できる場所で、修市は外の景色を眺めていた。視線の先に映る景色は旧都と呼ばれる魑魅魍魎が跋扈する地獄の名残。地霊殿の灼熱地獄跡の光とは異なる鮮やかな光に目を細めながら、修市はさとりとの遣り取りを思い返していた。危うく噛み付かれる寸前の所でクロを抑え込んださとりから告げられた今後の方針を。
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