接触

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 外来人が元の世界に戻る条件は、地上の博麗の巫女と呼ばれる少女に会う事が絶対的条件である事。始めの頃はさとりの言葉を信じる事が出来なかったが、これまでの経緯から博麗の巫女に会う必要がある事は理解した。その上で、さとりは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、こう告げたのだ。 「博麗の巫女に会うには地上に上がる必要があります。ですが、日野さんを地上に案内するには、旧都を通りぬけ、地上に繋がる縦穴を通る必要があります。旧都を通り抜ける分には問題ないのですが、地上に上がるという事が、実は問題なんです」  曰く、元々地底は地上とは不可侵の約束を交わしているらしい。今はその契約も曖昧なものになっているらしいが、地霊殿の主である自分が地上に上がる事は二つの意味で問題がある様だ。  その一つが、地霊殿の主であるさとりが、灼熱地獄跡の怨霊達を管理している事。そしてもう一つが、修市を地上に案内するにあたって、地上の地形を熟知している人材が不足している事だった。 「私の身内の中に、地上と地底を自由に行き来する子がいるにはいるのですが、その子は自由奔放で中々此処に戻って来る事がありません。かといって、日野さんをお一人で地上に送ろうものなら旧都の妖怪達に襲われる可能性も否定できません」  無論、地底の妖怪以外にも、地上にも妖怪がいるらしく、一人で行動させるにはリスクが高すぎるというのがさとりの見解。妖怪の前では、人間の力は微々たるもの。単純な身体能力は無論、人間の力を遥かに凌駕する妖怪の前では、食物連鎖の例に漏れず、人間である修市は捕食の対象である事を告げ、その上でさとりは提案した。  地霊殿で保護した事も何かの縁ですので、博麗の巫女が住まう神社には私が案内すると。先程までの出来事を思い返し、今日という一日は、これまでの人生で最も色濃いものだったのではないかと、修市は思った。 (といっても、記憶は無いんだけどね)  自分が生きていた外の世界からこの幻想郷に流れ着いた事。地底というかつての地獄跡に建てられた地霊殿と呼ばれる建物の庭で意識を失っていた事。記憶を失っていた事、そして、この地霊殿の主である古明地 さとりという少女に出会った事。  初めてさとりに出会った時に感じた、彼女に出会えた事に対する安堵感。あれが一体なんだったのか今でも分からないが、彼女に出会えた事で一命を取り止めた事は確かだろう。
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