接触

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 仮に、人間を捕食の対象とする妖怪と遭遇していたなら、二度と目を覚ます事は無かったのではないかと、今更ながらに修市は身震いした。 (そう言えば、結局、古明地さんがどんな妖怪か聞きそびれたな)  この地霊殿の主であり、この建物の下に位置する灼熱地獄跡の怨霊を管理する立場である以上、妖怪として上位に位置する存在だろうと、修市は思った。人は見かけによらないという言葉がある様に、あの華奢な体に似合わない何かを、さとりは有しているのだろう。果たして、彼女は一体、何者なのか。 「おい、こんな遅い時間に何してる?」  と、修市の思考を遮る声が一つ。視線を横に向けると、ふさふさの毛が印象的な子犬が一匹、送り犬のクロがそこにいた。相変わらず機嫌が悪そうなのは、少し前の出来事が尾を引いているのだろう。  あの後、さとりから聞いた話によると、幼い見た目にコンプレックスを抱いており、本人としては、さとりを守る番犬として相応しい雄々しい姿でありたかったのだろう。目深帽子で幼い顔立ちを隠し、口調も淡泊なものにする事で、少しでも見た目以上の風格を保ちたかったのだろうが、さとりが帽子を取られた上に、招かれざる客であった修市に可愛らしいと言われ、御立腹になったというのがさとりの弁であった。 「おい、話を聞いてるのか? 此処で何をしていたのか聞いているんだ」  返答がなかった為、改めて問い掛けてくる。 「あぁ……いや、すいません。今日一日の出来事を考えてました」 「今日一日の出来事?」 「はい、こうして古明地さんに拾ってもらった上に、外の世界に戻る為の手配までいていただいて、感謝しても足りないくらいだなって、そう思っていました」  先程まで思案に耽っていた内容とは異なるが、さとりに対する感情に嘘偽りはない。その場を誤魔化す様な形で答えた内容だが、それを聞いたクロは、先の御立腹な態度とは裏腹に、思わずはにかんだ様な笑みを浮かべた。 「……そっか、感謝してるのか。さとり様に。うんうん、そっか、そうなんだな」  外の世界に戻る為に、さとりは博麗の巫女に書状を贈ると言っていた。内容は地底に外来人が流れ着いた為、一時的に保護してほしい旨と、地底まで御足労願うのは手間がかかるだろうと判断した為、了承ならば地上まで外来人を案内するというものである。
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