接触

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 そして、その書状が博麗の巫女に届き、地上に上がるまでの間、この地霊殿にて客人として持て成すとまで言ってくれたのだ。感謝してもしきれない。そんな実直な感想を、クロは犬の姿ながらに表情を崩し、笑みを浮かべている。主人であるさとりの事を良く言われたのが嬉しかったのだろう、喜びの感情が尻尾にまで現れ、千切れんばかりにぶんぶんと力強く振られていた。 (自分の事じゃないのに、それだけ嬉しいんだろうな。古明地さんの事を良く言われた事が)  よほど、さとりの事を慕ってるのだろう。警戒一色だったクロの表情は笑みで崩れ無防備そのもの。今なら頭や体を撫で回しても、何の問題もなく受け入れてくれるだろう。そう思うと、良く手入れの行き届いたふさふさの毛が目に映り、思わず手が伸びる。  伸びる手にクロが気付く様子はない。後少し、後少しでクロの頭に手が届きそうな距離まで近付いたその時、修市の心臓の音がドクンと大きく鳴り響いた。 「……え?」  心臓が跳ね上がる音に、修市は思わず声を漏らす。  続いて、ズキンと脈打つ様な頭痛に、修市が顔を歪めた。 (何だ? 一体何が起こって……っ!!)  立て続けに起こる不可解な異変に困惑する。  先程まで何事もなかったのに、クロの頭に触れようとした瞬間、まるでそれを拒絶するかのように、頭痛がより一層強くなり、視界がぐらりと暗転した。  次の瞬間、修市の脳裏に、テレビの映像の様なものが流れ込み、そこに映し出されたものに、修市は目を見開いた。  全身真っ赤に染まった少年の姿。俯いた少年の傍らには、一匹の動物が横たわっていた。あれは犬か、それとも猫か?  ノイズ混じりに映った動物は赤く染まり、ピクリとも動かない。少年もまた、傍らに横たわる動物を見つめるように俯き、表情を伺う事が出来ない。しかし、修市は少年の事を知っていた。  記憶がないにもかかわらず、修市は、少年の事を知っていた。何故なら、その少年は…… 「……野!! …い日野!!」  と、自身を呼ぶ声に我に返る。先程までのノイズ混じりに流れた映像は無く、地霊殿の廊下と目の前にクロが足元でズボンを引っ張りながら何度も修市の名前を呼んでいた。 「おい日野、大丈夫か?」 「え、あ、あぁ、はい。大丈夫です」 「本当か? なんだか様子がおかしかったぞ。そんなに汗まで流して」  クロの指摘に、全身から吹き出す様に汗が流れていた事に気付き、頬を伝う汗を手で拭う。
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