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「あ、あはは、ちょっと暑いからかな? ほら、此処って、灼熱地獄跡の上に建てられた建物でしたよね。もしかしたらその影響かもしれません」
「……分かった。そこまで言うんだったら問題ないって事で良いんだな?」
「はい、何も問題ありません。心配かけてしまったようで申し訳ありません」
「心配なんかしていない。僕はただ、さとり様に迷惑がかかる様だったらって思っていただけだ。お前の事はあくまでも客人として対応するだけだ」
と言ってもと、クロは踵を返すと、元来た道を戻り、去り際にチラリと視線を向け、口を開いた。
「此処に来る客人なんていなかったからな、どう接したらいいか分からないのが本音だ。だから、少しの無礼は目を瞑れよ。僕も出来るだけ気を付けるからな」
―地霊殿 さとりの自室―
修市と別れた後、先程の遣り取りで違和感を感じたクロは、返す足でさとりに報告をしていた。
「日野さんの様子がおかしかった……ですか」
「はい、はぐらかす様に話していましたが、明らかに様子がおかしかったので報告に来ました」
「……そうですか。態々報告して頂き、有難う御座います」
「それで、あの男の件ですが、さとり様はどのように対処されるのですか?」
対処というのは、修市の処遇についてであるが、一つは最初に話したように地上の博麗神社まで届けるまで客人として迎え入れる事、そしてもう一つ……。
「クロとしては、彼は危険だと、そう判断しているのですね」
「申し訳ありません。ですが、見ず知らずの人間を、それも外来人を地霊殿で迎え入れるというのは危険だと思います」
「しかし、その反面、彼の事を心配している気持ちもある……ですね」
さとりの言葉に、クロは小さく唸った後、肯定の意味で頷く。
「クロの中で、彼に対して何かしら思う事があったのでしょう。それに関して、私がとやかくいう事はありません。本来でしたら、彼の思考を読み取った上で危険の有無を確認したい所でしたが、記憶がない以上、彼の思考を読み取った所で、判断材料として不明瞭な点が多いのが致命傷ですね」
思考を読み取る妖怪であるさとりにとって、記憶がない人物から素性を明らかにする事は不可能に近い。加えて、思考を読み取ろうとしても、修市の思考が何らかの能力によって疎外されている為、どちらにしても修市の真意を読み取る事が出来ない以上、どうする事も出来ないというのが現状である。
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