接触

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 時折、外の世界から忘れ去られた物や生き物がこの世界に迷い込む話を聞いた事があったが、地底に流れ着くのは極稀で、その大半も、地霊殿を居住区として自由奔放に生活する動物達が精々であった。視界の端に映るペット達が、さとりと外来人の青年を遠巻きに見ている。彼等も、さとりが外来人の男をどうするのか興味津々といった様子である。 (さて、珍しい方を見つけたのは良いですが、どうしたものでしょうか?)  と、男の事を考えていたさとりだが、そこでふと、疑問が浮かんだ。此処にいる外来人であろう青年は、一体どんな理由で此処に流れ着いたのだろうと。前述したように、外来人とは基本的に、幻想郷のパワーバランスを保つ為に連れてこられた贄である。しかし、妖怪の賢者 八雲 紫とは地上の妖怪の地底世界への不可侵を約束し、妖怪である紫が地底に外来人を連れ込むことは考えづらい。地底で起きた異変を地上の人間、博麗の巫女と白黒の魔法使いが解決した頃より幾分かその約束が緩んでいたとしても。   逆に、地上の外来人が地底に出入りする事は、かの約束に触れていないので可能とはされているが、はたしてこの青年はどうだろうか。人間にとって、住み心地の悪い環境と言わざるを得ないかつての地獄、旧地獄である。人ならざる魑魅魍魎が跋扈する地底に人間が足を踏み入れるなど、自ら死にに来たようなものである。  この青年は自殺志願者なのだろうか。それとも、危険を顧みず、この地底を訪れる理由があり、紆余曲折を経て此処まで辿り着いたという線も捨て難い。 (どちらにしても、このまま放っておいたら、お空かお燐が死体と勘違いして灼熱地獄の燃料にくべるか、ペット達の餌になってしまいますね)  さとりの飼っているペットの中には肉食の動物もいる。今はさとりがいるため何もしてこないが、このまま彼を放置したらペット達が彼をどうするかは想像に難くない。 「……仕方がないですね」  ふぅっと溜息一つ、さとりは近くで様子を見ていたペット達を見渡し、その中の一匹に目を付けた。視線の先には一匹の子犬、犬種は不明だが、ふさふさの毛が印象的な愛嬌のある子犬が、さとりの視線に気付き、ひたひたと近付いてくる。  足元まで近付いて来た子犬に、さとりはしゃがみながら頭をそっと撫でる。気持ちよさげに鳴き声をこぼす子犬に、さとりは優しく声をかけた。 「クロ、お願いがあります。この方を地霊殿の客室まで運んでください」
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