悪夢

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 地霊殿には様々な動物達で溢れ返っている。もし彼等に触れ、最悪の結果を招いた場合、さとりとの関係に大きな溝が生まれるどころではない状況に陥るのは明白。それ以前に、さとりに迷惑をかけたくないと思った修市は、今後、地上に上がるまでの間、動物達には触れまいと、そう結論に至った。  気持ちの整理が済んだ丁度その時、扉を叩く音が聞こえた。 「日野さん、失礼します」  声の主はさとりである。扉のドアノブが動き、扉が開かれると、さとりと共にもう一人(正確には一匹)、クロが入出した。 「昨晩はゆっくりできたでしょうか?」  柔らかな笑みと共に、修市に問い掛ける。 「はい、昨晩はゆっくり過ごす事が出来ました。有難う御座います」 「そうですか、それは良かった」  正直な所、あの悪夢のせいで目覚めが良いとは言えないが、さとりに迷惑をかけまいと嘘をついた。しかし、一瞬だけさとりの眉が動いたのを見て、思わず視線を逸らしてしまった。 「前にも話しましたが、この地霊殿は灼熱地獄跡に建てられた建物ですので、寝苦しかったらと思いましたが、どうやら杞憂だったようですね」  その言葉に、さとりが自分の嘘を見抜いていた事に気付く。真意を見抜かれたわけではないだろうが、昨日のさとりとの会話でも、その節々で相手の真意を見抜く洞察力があるのではと思うくらい、彼女は相手の意図を組んで話を進めてくれる。  見ず知らずの自分に、彼女は何処までも優しく接してくれるその姿勢に甘えてしまうのは良くない事だが、その行為を無下にする事も出来ない。そんな修市の心情すらも察しているのか、さとりは隣に佇むクロに目配りし、今後の事を話し始めた。  この後、クロが博麗神社に赴き、さとりの書いた書状を博麗の巫女に渡す事。そして、クロが返事を持ち帰るまでの間、もう暫くこの地霊殿で身を預からせてもらうという簡素な内容であった。 「おい、日野」  さとりから簡単な説明を受けた修市に、クロが睨みを利かせながらズイっと近付く。昨夜、別れ際の発言から少しは気を許しているかと思ったが、中々そうはいかないらしい。地霊殿の番犬代わりの様なものだから、身内以外の人間に対して警戒するのは当然か。若しくは、さとりの前だからこそ、仕事のオンオフを弁えているのかもしれない。 「どうしました? 何かお話でも?」
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