悪夢

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 アレルギーの事を言っているのだろう。その知識はある。例えば、卵や乳製品、魚介類の類や金属類、人には個々人で様々なアレルギーを持つ者がいる。本来なら、自分が持つアレルギーを知っていればそれに触れる事もなければ食す事もない。  しかし、その記憶がない場合、誤って口に含んでしまったり、それに触れてしまえば、最悪命の危険を伴う状況に陥る可能性があるという事だろう。  それを踏まえた上で、今の修市に何が必要か。それを考えていると、さとりは何かを閃いたと言った様子で、修市に提案した。 「例えばですが、今回の様に自分の事を知った後、ノートに記録するというのはどうでしょうか?」 「ノートに記録ですか?」 「はい、物事を記録するという事はとても大事な事です。特に、今回の場合は、何が原因で記憶を失ったのか分からない状態ですので、私達の事も忘れてしまう可能性があります。その時に備えて、これまでの事を箇条書きでもいいので記載していくんです」  確かに、何が原因で記憶を失ったのか定かでない以上、こうしてさとりやクロ、地霊殿の記憶がなくならない可能性はゼロではない。地霊殿での記憶をノートに記載しておく事で、その時の為に備えておいた方が良いのだろう。もしかしたら記録を纏めている内に、記憶を思い出すきっかけになるかもしれない。  そして何より、何もしないより何かしていた方が幾分かましという事もあってか、修市はさとりの提案を快く了承した。 「それでは、これまでの事を簡単にではありますが書いていきたいと思います。今後の為にもなると思いますので」 「はい、そうして頂けると、何かきっかけが出来るかもしれません。分からない事がありましたら私に相談して下さい」 「はい、その時は宜しくお願いします」  そう言って、ノートを受け取ると、この地霊殿に流れ着いた時の事を思い返し、ノートに纏めていく。地霊殿の庭で倒れていた事。さとりとクロに保護された事。記憶がなくなっていた事。日常生活をする範囲の記憶はあるが、自分の思い出そのものが……  箇条書きでこれまでの事を綴っていた修市の手がピタリと止まる。記憶の所で、思い当たる節があった。修市はそう思い、もう一度振り返ると、あの記憶が鮮明に浮かび上がってくる。クロを撫で様とした時、かつての記憶が僅かに戻った事。
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