悪夢

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 始めは何かの冗談かと思ったが、あの後、夢の中で体験した出来事は、確かに覚えがあった。詳しく思い出そうとしても思い出す事は出来ないが、確かにあの記憶だけは本物だった。本物の、忌まわしい記憶、トラウマだった。果たしてあれは、此処に記載すべきだろうか?  渡されたノートは、何かの拍子にさとりに見られるかもしれない。さとりでなくてもクロや、先程話題に上がったお燐やお空、さとりの妹であるこいしに見られるかもしれない。 (流石に、あれは拙いか)  夢の内容とはいえ、あれは見られたくない。何故、動物に触れただけであのような悲劇に見舞われたのか未だに理解できないし、説明した所でさとりに迷惑どころか混乱すらさせるだろう。  さとりでも分からない事もあれば、あの摩訶不思議な現象を目の当たりにすれば、地上に上がるまでの間、此処に身を預ける事が出来なくなるかもしれない。それだけ、あの現象は危険なものであると、修市は直感的に判断した。 「どうされました? 何か気になる事でもありましたか?」  と、これまでの事を纏めていた手がピタリと止まったのを見て不思議に思ったのだろう。さとりの声にハッとなり、視線を上にあげる。 「あ、いいえ。こうしてノートに纏めていると、何処から手を付けたらいいのか分からない所があったので、ちょっと考え事をしていました」 「あぁ、確かに。突然これまでの事を纏めると言っても、何処から纏めていいか分からない事もありますからね。これは失念していました。申し訳ありません」 「謝らないで下さい。古明地さんが態々こうして提案して頂けるだけでも、僕としてはとても嬉しい事です。出来る限り、何か思い当たる事があればこうして書き綴っていきたいと思っています」  夢の内容までは、という言葉は出てこなかった。自分の事を此処まで思ってくれる相手に想いの内を伝える事が出来なかった事に罪悪感を感じたが、これはきっとさとりの為とかそういうものではなく、単に自分の為なのだろうと、修市は自傷気味に内心笑う。  そう考えると、自分は打算で物事を考える性格だったのかもしれない。これもノートに書くのは止めておこう。ノートに纏めた所で必要ない情報だ。
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