九十九神

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 時琶は決して喫煙家ではない。気晴らし程度に煙を嗜むだけだ。そして、たばこの煙を嗜む時は何時だって無理を通している時に限られている。それを指摘された時琶は、ややばつの悪そうな表情を浮かべると、観念したように苦笑を浮かべながら、隣に座る龍蓮に思いの内を語った。 「ははは、すまないな。どうやら姫様に心配をかけてしまったようだ。あぁ、確かに問題は山積みだ。手持ちの戦力は限られている。与えられた時間も正直心許無いのは事実だ。それに……」  それにと、言葉を繋げる時琶に龍蓮はその言葉に続く台詞を、時琶のかわりに代弁した。 「敵の情報が未知数故に表立った行動もとる事が出来ない。下手に行動に移せば警戒され、そのまま姿を晦ませる可能性もある。そうなってしまっては元も子もない。いや、それ以前に、今の戦力で、果たしてあれ(・・)を止める事は出来るのだろうか? そう思っているのではないですか?」 「……そうだな。あぁ……確かにその通りだ。現状の戦力であれと渡り合うのは正直不可能だ。それは私だけではなく他の九十九神の皆も理解している筈だ。それでも尚、この無謀な任務に参加したのだ。私はその意志に答えねばならない」 「それは、本来私の台詞ですよ、時琶。此度の任務に参加する旨を示したのも私。皆を募ったのも私。そう、皆の命を預かり、彼女達の意志に答えなければならないのは、本来ならば私なのです」  そう言って、時琶の肩にもたれ掛る様に身を寄せる龍蓮に、時琶も同じ様に龍蓮の身体に身を預ける。 「あぁ、そうだな。此方の総大将は姫様……いや、龍蓮だ。失念していたよ」 「えぇ、時琶は一人で背負いすぎるくらいがあります。私にだって少しは頼ってくれてもいいのですよ」 「ははは、そうは言うが、敵は龍蓮の事を知っている。表立って行動する事は不可能なんだよ」  ちらりと視線を向けると、月明かりの中、憂いを帯びた表情を浮かべた龍蓮がジッと時琶の事を見つめている。今の自分では役に立つ事が出来ない。それを理解している故の表情だろう。  敵は龍蓮の事を知っている。無論、時琶の事も間接的には知っているだろう。しかし、龍蓮と時琶とでは、敵側に対する認知度が圧倒的に違いすぎる。事を起こすまでの前準備を行う上では、時琶の方が行動に移しやすいのも十分に納得できる。
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