九十九神

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 だが、納得が出来る事と、それを受け入れる事は意味合いが大きく違う。他の九十九神の少女同様に、危険の伴う任務を与えておきながら、自分だけ屋敷の中で一人留守を任される身としては気が気ではないのだろう。そんな龍蓮の心情を察した時琶は、より一層密着する様に龍蓮の背中に手を回しながら口を開いた。 「龍蓮は屋敷でどんと構えているだけでいいんだ。少なくとも、来るべき時の為に、最高戦力を温存させておく事は今回の作戦において必須不可欠な案件だからな。最高の切り札は最高のタイミングで切らせてもらうよ」  もっと気の利いた台詞を……と、内心思いながらも、今の龍蓮を納得させる為の言葉がそれ以外に浮かばなかった事に自傷気味な笑みを浮かべる時琶に、龍蓮は一瞬目を見開き、そしてクスクスと笑みを浮かべた。 「ふふ、最高の切り札ですか。それは中々に……いいえ、とても良い響きです。では、その切り札を切るタイミングは時琶にお任せしましょう」 「あぁ、任せてくれ。その為の準備も十分に出来ている。その為に、私達は幻想郷に流れ着いた外来人を調べているのだ」  本当は納得してはいないのだろう。それでも、時琶の言葉に従い、一歩身を引いた龍蓮に応えるべく、時琶は今回の外来人調査において最重要事項たる人物の名を口にした。 「日野 修市。先ずは件の外来人を探し出すんだ。奴を探し出し、そして……」  かの外来人、日野 修市を……殺す。 ―幻想郷 ???―  深夜、生物の多くが眠りにつく時刻に、森の中を外套を纏った人物が歩いていた。性別は不明。年齢も不明。あらゆる情報が纏った外套によって秘匿された人物は、一切の迷いなく、森の中を歩いていた。否、森の中を彷徨っていた。まるで、何かに遭遇する事を前提とした足取りで、見晴らしの良い道沿いをひたすら歩いていた。  幻想郷において、人里以外の場所には数多の妖怪達が跋扈している。無論、妖怪以外にも肉食の生物が数多く生息しているだろう。その中で一人、人気のない森の中を歩く事は自殺行為に等しい愚行とも言えるだろう。現に、森の中を彷徨い歩くその人物に気付いた妖怪が一匹、久方の獲物に舌なめずりしながらゆっくりと近付いた。  そして……。 「っ!!」  外套を纏った人物の視線が、妖怪を捉えた刹那、一気に間合いを詰めた妖怪の牙が、外套を纏った人物の肩に深々と突き刺さった。
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