地上へ

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 幻想郷の地上で九十九神の少女と外套を纏った人物が各々の目的を以って行動を始めた頃、さとりからこれまでの自分の記憶を振り返る為に記録を残し始めた修市だったが、再び悪夢に苛まれていた。今度は動物の亡骸だけではなく、新たな記憶、新たなトラウマを携えて。  修市の目の前に、あの時の少年が佇んでいた。かつて見た夢の中で、血に塗れた動物の亡骸の傍で佇んでいた少年。その少年の周囲には同年代の少年少女。まるで少年を包囲する様に、遠巻きに修市と少年を囲んで何かを叫んでいた。  声は聞こえないが、忙しなく動くその口の動きからすると、少年に対して何か罵倒しているような、そんな雰囲気だ。そんな少年少女を眺めながら、修市は思い出す。この光景、何処かで見た事がある。  遠い記憶で失われた筈の記憶の中で、確かにこの光景を見た覚えがあるとそう思い、何時、何処でこの光景を体験したのだろうと思い返す。しかし、記憶がない状態でこの時の記憶を思い出せるはずがない。一方的に何かを叫ばれ、罵倒されているであろう少年こと、かつての自分を傍観する。  すると、一人の少年がかつての自分に近付き、再び何かを叫び始めるのを見て、ある事に気付いた。その口の動きが、紡がれる言葉が一定している事に。言葉は発せられていない。しかし、口の動きを凝視していると、その単語が、修市の脳裏に鮮明に浮かんできた。 『化物!! この化物!!』  何度もその言葉を繰り返し罵倒する少年に、幼少の頃の自分は何も言わず、ゆっくりと掌を掲げ少年の顔を鷲掴みにしようとしたところで……修市は再び悪夢から目が覚めた。  目を覚ますと、あの時と変わらない景色が広がっていた。地霊殿の客室。さとりから借り受けた客室の一部屋。静まり返った空間の中で、自身の荒い息遣いだけが聴覚を刺激する。  続いて、全身に感じる大量の汗。シャツは汗に濡れ、額からも大粒の汗が流れ落ちている。恐らくは悪夢を見た影響で嫌な汗が流れ出たのだろうと思い、ベットから起き上がると、汗を拭こうとタオルに手を伸ばす。  身体が重く、そして怠い。体力が根こそぎ持っていかれたような感覚だ。夢という形で昔の記憶が蘇る度に、それがトラウマとして修市の精神を蝕んでいるのだろう。  あの夢はかつての出来事、本当にあった出来事だ。自身が体験した出来事が夢の中で再現されているのだろう、少しずつ、少しずつではあるが記憶が蘇りつつあるのだろう。
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